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コラム

中小企業の株式対策エッセンス【弁護士による企業法務解説】


2022.01.20コラム

今回は、中小企業の株式対策として、株式の分散、株式の集中、株価対策、議決権の集中、自己資本比率など、中小企業に必須な株式対策のエッセンスを解説します。

 

1 株式の分散

オーナーが株式の100%を保有しておらず、他の親族、役員、従業員、共同経営者らも株式を保有している状態を、株式の分散と呼びます。

株式の分散は、上場あるいは株式公開をしていない中小企業にとって、特別にそれを必要とする事情がない限り、百害あって一利なしです。株主総会等のコスト増、経営のスピード阻害、MAや事業承継の障害などになるからです。中小企業の強みである機動力・スピードに相反するのですね。
かつ、そもそも、会社の所有者は株主です。オーナー企業であればその実態に合わせてオーナーが100%保有するべきでしょう。

過去には、株式会社の設立時の発起人が7名必要だった時代がありました。また、中小企業でも従業員に株式を持たせることが奨励された時代もありました。勿論、オーナーが100%保有していたとしても、相続により分割承継されることがあります。株式が分散している会社は少なくありません。

 

2 株式の集中

株式が分散している会社は株式の集中あるいは集約を行います。最近は、事業承継対策として、株式の集中に関する提案が、金融機関やコンサルタント会社からされますね。

合意によって株式を購入するのが一番簡単な方法です。
株式を現オーナーそして後継者に強制的に集約する法制度も整備されつつあるところです。特別支配株主の株式買取請求制度ができましたし、株式併合を活用した少数株主排除の手段もとりやすくなりました。

 

3 株式の集中と株価

株式の集約をするにあたって一番困るのは株価が高いケースです。株価が高いと、株式の集約にかかるコストが跳ね上がります。税務上問題のない形での売買、株式買取請求、株式併合等のコストは株価次第です。株価が高いケースとしては、適切な役員報酬をとらず会社に利益をプールした結果であることが多いですね。MAで株式を売却する場面は別として、株価が高いことには何らのメリットもありません。むしろ弊害が多いといえます。

仮に事業承継が絡むのであれば、役員退職金が即効性のある株価引き下げ策となります。それが使えないケースでは、ある程度の所得税を払っても中長期的な報酬戦略をとって、会社から個人(オーナーあるいは後継者)への資産移転を進めます。

 

4 議決権の集中
株価が高すぎるなどの理由で株式の集中ができない場合には、次善の策として議決権の集中を図ります。

種類株式(内容の異なる株式を発行する制度)、属人株式(株主によって株式の扱いを変える制度)の活用ですね。オーナーあるいは後継者の保有する株式に議決権を集めます。議決権を集中すると、経営のスピード・機動力の確保、円滑な事業承継には耐えられます。

例えば、代表取締役の保有する株式の議決権を10倍にすると株主総会の開催も決議も簡単になります。経営者以外の株主の株式を議決権なしにすることでも経営が安定しますね。

 

5 自己資本比率は高いほどいいのか

法律論とは少し離れます。自己資本比率が高ければ高いほどいい会社というわけでもない、という話です。

ひと昔前の銀行の与信審査では、自己資本比率が大きなウェイトを占めていました。安全性が高いということですね。勿論、大企業であれば自己資本比率が高くてもいいです。また、自己資本比率が低すぎると危険なことも確かです。しかし、少なくとも中小企業に限っては、自己資本比率が高ければ高いほどいいとはいえません

中小企業において自己資本比率が高いということは何を意味するのでしょうか。経営(=資金の運用)を十分に行っていないことになります。営業活動をすれば、資産(売掛金等)あるいは負債(買掛金等)が膨れ、自己資本/総資産で表される自己資本比率は低くなります。さらに、会社の信用を生かして銀行から借り入れて商売の幅を拡げる、あるいは資金の回転を多くして利益を増やそうとすると、当然に自己資本比率が低くなります。中小企業は、銀行からお金を借りて(間接金融により)調達した資金を運用して、利益を拡大させるものです。儲けようとすれば自己資本比率は下がるはずです。自己資本比率が過度に高い中小企業には成長性がないはずですね。

 

6 まとめ

株式の分散は望ましい状態ではなく、株式の集中を図る必要があります。そのための法制度も整備されつつありました。株価が高すぎると株式の集中の障害になります。即効性のある役員退職金や継続的な報酬戦略が求められます。株式の集中が困難な場合には議決権の集中を考えます。自己資本比率は高いほどいいわけではありませんでした。

株式は経営の基本です。決して株式対策を先送りにしないでください。

なかた法律事務所 弁護士仲田誠一(広島弁護士会所属)

◆経歴

1996年4月~ あさひ銀行 融資、融資管理、企業再生、法人営業等
2002年5月~ 東京スター銀行 経営管理、内部監査、法人営業等
2004年4月~ 広島大学大学院法務研究科
2008年12月 弁護士登録
2017年~各前期 広島大学大学院法務研究科客員准教授(税法担当)

 ◆資格等

弁護士
公認内部監査人試験合格、広島市消費生活紛争調停委員会委員
経営革新等支援機関(中小企業庁)、MA支援機関(中小企業庁)
著作「自転車利活用のトラブル相談Q&A」(民事法研究会,2022年)

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